推理小説の部屋

ひとこと書評


タカイ×タカイ CRUCIFIXION/森博嗣 (講談社文庫)

★★★  

美人マジシャンの邸宅の高いポールの上に展示されたマネージャーの死体。 果たして誰が、どうやって、何のために?

真鍋が同級生の女の子と会っているのを根掘り葉掘り聞きだそうとする小川さんが、 まるでお姉さんかお母さんのような感じで面白いですね。

鷹知、小川、真鍋の3人がそれぞれ補完し合ってようやく一人前の探偵役を構成しているような感じ。 それでも萌絵一人に敵わない、って感じですかね。

「次作以降の予定」を見る限り、Xシリーズ長編はこれ以降出てないんでしょうかね? そろそろ終了させる準備にかかっているんでしょうか。

(2012.03.31)


七人の敵がいる/加納朋子 (集英社文庫)

★★★☆ 

編集者として男性に負けずにバリバリ仕事をこなすキャリアウーマンの山田陽子。 一人息子の陽介が小学校に入学し、最初のPTA会議で空気の読めない発言をした時から、 陽子の周りは敵だらけとなった…。

「PTA」をエンターテインメントに仕上げた傑作。 女社会特有の、面と向かって言わない理不尽な「陰口」に「無視」やらに、 決して屈することなく立ち向かう陽子さんがカッコ良過ぎます。

同じつまはじき仲間のヤンキー母やら盗癖母やら、一見役に立たないネットワークが、 ちゃんと後で活きてきて、大逆転に繋がるあたり、気持ちいいですね。

色々と考えさせられることもあり、最後の提案もなかなか良いアイデアのようにも思えますが、 現実には実現は難しいんでしょうかね。

(2012.03.27)


六つの手掛り/乾くるみ (双葉文庫)

★★★☆ 

世界の大道芸人を紹介するプロモーターであり、 自身も一流の手品師でありパフォーマー。 シルクハットにチョビ髭の「太ったチャップリン」の風貌で、 実は名探偵の「さぶりん」こと林茶父(さぶ)が探偵役を務める連作短編集。

飄々とした探偵のキャラクター像からして、日常の謎系なのかと思いきや、 がっつりと殺人事件が起こって、それをロジックで解決する、 というど真ん中の本格でした。 これまでの乾さんの作品の中でも一番本格度高いかも知れません。

目次から、キャラクターのネーミングから、遊び心も満載ですね。

(2012.03.22)


三匹のおっさん/有川浩 (文春文庫)

★★★★ 

還暦くらいでジジイの箱に蹴り込まれてたまるか!定年退職後、 系列のゲームセンターに嘱託で再就職することになった剣道の達人・キヨ、 息子夫婦に居酒屋を譲りいつも黒ジャージの強面・柔道家シゲ、 妻の忘れ形見となった一人娘をこよなく愛す頭脳派だが実は一番危ない小さなおっさん・ノリ。 子供の頃「三匹の悪ガキ」と呼ばれていた3人が、町の小さな平和を守るために、 「三匹のおっさん」として再結成した。

いやー、面白かった。現代を舞台にした痛快時代劇、という感じでもあります。 キヨの孫の祐希とノリの娘の早苗もいいキャラクターですね。 勧善懲悪ってのはやっぱり見ていて気持ちがいいものです。

続編も単行本になったようで、文庫落ちするのを楽しみにしています。

(2012.03.18)


ミノタウロス/佐藤亜紀 (講談社文庫)

★★★  

第一次世界大戦前後、ウクライナの架空の町・ミハイロフカを舞台に、 一代で大地主に上り詰めた無口な父、軍人となった兄をよそに、 若いながら達観したような次男坊が、堕ちて堕ちて堕ちていく話。

もちろん戦争が背景にはあるんでしょうが、 思想とか関係なく、ひたすら略奪し、掠奪され、の繰り返し。 ホント、堕ち方の描写が丁寧で容赦なくハンパないです。

つるむ連中が、基本的に屑なんですが、何か一つだけ特技がある (馬車を操縦できたり、飛行機で曲芸飛行できたり)ってのがなかなか面白いですね。

(2012.03.14)


遥かなる時空の中で2 八葉幻夢譚/近藤史恵 (GAMECITY文庫)

★★★  

「2」の外伝。八葉の四神のそれぞれのコンビを主役にした短編4編を収録。

「2」は八葉の四神の天地コンビが、それぞれ帝派と院派になっていて、 性格も正反対に配置されている、ということで、 まだまだぎこちないコンビが何とか事件を対処していく、というところがポイントですね。

(2012.03.08)


時間のおとしもの/入間人間 (メディアワークス文庫)

★★★  

「時間」をテーマにした4つのSF短編を収録。 それぞれ「タイムパラドックス」「タイムトラベル」「パラレルワールド」とバリエーション豊富。 最後の一編はSF要素は無いですが。

(2012.03.08)


遥かなる時空の中で2/近藤史恵 (GAMECITY文庫)

★★★  

「遥かなる時空の中で」シリーズのノベライズ。これまでの外伝ではなく、 「2」そのもののノベライズ、という位置づけらしいです。

「1」と違って、「院」と「帝」で京都の勢力が2分されており、 「龍神の神子」も2人居て、八葉のうちの半分も「院」派で、最初は神子が信用されない、 というのが面白いですね。

(2012.03.08)


UN-GO 因果論/會川昇 原案:坂口安吾

★★★☆ 

ノイタミナで放送されていたTVアニメ「UN-GO」の、劇場版の、脚本家自身によるノベライズ。 位置づけ的には、「敗戦探偵」新十郎が因果と出逢った「エピソード0」に相当する話になります。

正直、アニメで見ていただけでは良くわからなかった「近未来の“戦後”日本」の設定の細かいところなど、 小説で読んでようやく理解できたという感じです。 これを踏まえた上でもう1回アニメを通して観てみたくなりました。

(2012.03.01)


幽談/京極夏彦 (MF文庫ダ・ヴィンチ)

★★★  

現実と幻想の境目が曖昧になるような作品を集めた短編集。

敢えて最後まで詳細を明かさないことで、想像の余地を残しているというか、 そんな感じの作品が多く収録されています。

(2012.03.01)


遥かなる時空の中で 花がたみ/近藤史恵 (GAMECITY文庫)

★★★  

「遥かなる時空の中で」の外伝シリーズ第2弾。

前作遥かなる夢ものがたりでは、 あかねの「物忌み」の期間に八葉たちが話を聞かせる、という体でしたが、 今作は八葉視点の物語なので、あかねの存在感の無さったら半端ないですね。、

原作のゲーム(?)では無い組み合わせを、ということで、 2人×4つの物語で構成されていて、かつ「花」がテーマになってます。 ジュブナイル向けとは思えないような、苦いエンディングを迎える話もあったりして、 近藤さんの持ち味が発揮されていますね。

(2012.02.25)


千一夜の館の殺人/芦辺拓 (光文社文庫)

★★★☆ 

数理情報工学の天才・久珠場博士が死去し、百億円の遺産と、最新の研究成果を収めたディスクが遺された。 そのディスクを受け継ぐことになった、新島ともかの幼馴染で従姉妹。 その従姉妹が巻き込まれた遺産相続問題の解決に向け、ともかは従姉妹自身に扮して潜入したのだが…。

森江春策事務所の東京進出のきっかけとなり、また新島ともかの大冒険の原点ともなった作品。 遺産を巡る肉親間での骨肉の争い、と見せかけての、一段上を行くトリックと物語の構図が見事ですね。 ともかの明るいキャラクターからか、次々と起こる殺人事件にも、 それほど凄惨な感じを受けずに、ある意味淡々と進んでいく感じでした。

アラビアン・ナイトの千一夜物語と、RSA公開鍵暗号を絡めたりするところも、 無理矢理ながら面白かったです。

(2012.02.23)


中途半端な密室/東川篤哉 (光文社文庫)

★★★  

東川篤哉先生の、デビュー作を含めて、 プロデビュー前の「本格推理」等に収録された短編を収録。

ユーモアミステリでありながら安楽椅子探偵、というスタイルはこの当時から確立されていたんですね。 無茶なトリックも多いですが、ちゃんと本格してますね。

(2012.02.16)


あした吹く風/あさのあつこ (文春文庫)

★★★  

父親が幼馴染の姉との不倫の末に事故死した17歳の高校生・鈴と、 夫と親友に裏切られた34歳の女性歯科医・美耶子。 愛に対して距離を取っていた二人は、出逢ってしまった。

恋愛小説。二人の心情がそれぞれの一人称で、丹念に描かれています。 脇を固めるキャラクター、特に鈴の親友・隆平は、なかなか魅力的なキャラとして描かれてますね。

(2012.02.16)


彼女らは雪の迷宮に/芦辺拓 (祥伝社文庫)

★★★  

年齢も職業もバラバラな女性たちに出された雪深い谷底の「雪華荘ホテル」への招待状。 しかし従業員の姿は無く、招待客も一人、また一人と消えていく。 果たして招待した者の目的は何なのか?

森江春作シリーズ。大阪から東京に事務所を移したようです。 そして意外なことに、「雪に閉ざされた山荘」系の話は、シリーズ初らしいです。

トリックはなかなか壮大ですが、背景やら動機やら色々と納得の行かないことも…。 ただ女性がいっぱい出てくることもあり、 さらに森江春作シリーズのニッキー・ポーターこと新島ともか嬢が大活躍(暴走?)することもあって、 いつものシリーズとはちょっと違うライトテイストで楽しめました。

7章が「彼らは雪の迷宮へ」なのに8章が「彼女らは雪の迷宮に――」なのは、 なるほどそういう意味ですか。

(2012.02.10)


遥かなる時空の中で 遥かなる夢ものがたり/近藤史恵 (GAMECITY文庫)

★★★  

コーエイの乙女ゲー「遥かなる時空の中で」のノベライズ、らしいです。 ゲームの方は知りませんが、近藤史恵さんということで読んでみました。

逆ハーレムっていうんですかね。女性主人公の周りに、 タイプの異なるイケメン8人が配置されている、という構図です。

4話それぞれでクローズアップされるキャラクターがバランス良く配置されていて、 入門編としても良くできている作品でした。

(2012.02.07)


木練柿/あさのあつこ (光文社文庫)

★★★☆ 

「弥勒」シリーズ第3弾。前2作は長編でしたが、今作は4編を収録した連作短編集となってます。

段々と信次郎と清之介のやり取りが楽しみになってきました。 今作は、番外編的な位置づけということもあり、周りの人物が中心になっているために、 余計に2人の特殊性が際立つというか。反目し合っているように見えて、 互いに信頼しきっているところなど、素直じゃなくて面白い関係性ですね。

(2012.02.07)


散りしかたみに/近藤史恵 (角川文庫)

★★★  

探偵・今泉と女形・小菊が歌舞伎界に絡む謎を解き明かすシリーズの第2弾。 公演中、毎日決まったところで桜の花びらが散る。 誰が、なんのために、どうやって花びらを散らせているのか? 師匠の菊花に調査を依頼され、今泉に頼んだ小菊だったが、 今泉は、市川伊織の楽屋から出てきた美女とすれ違った途端に、 「この話から下りる」と言い出した。果たして今泉が見抜いた真相とは?

「桜姫」より前に位置するらしいシリーズ第2弾。 ようやく手に入りました。 「探偵」が調査に絡んだが故に事件を引き起こしてしまう、 という「後期エラリークイーン問題」のような側面も持ってますね。

(2012.02.02)


夜叉桜/あさのあつこ (光文社文庫)

★★★  

「弥勒の月」に続く、弥勒シリーズ第2弾。 女郎が斬り殺される連続殺人事件が発生。 手掛かりを求める信次郎と伊佐治は、「遠野屋」に行きつく。 今度の事件も清之介の過去が呼び寄せた「死」の影なのか?

清之介、なかなか過去を断ち切れませんねー。 しかし商人として生きる覚悟が彼をまた一つ上のステージへと持ち上げたようで、 今後の攻防も含めて楽しみではあります。

(2012.02.02)


ダークルーム/近藤史恵 (角川文庫)

★★★  

近藤史恵初の短編集。1994年から2011年まで、発表された年も、ジャンルも、 対象年齢も、見事にバラバラの短編が集まっています。 しかし人間の悪意が染み込んだような作品群は、どこか共通した読後感。

収録作の中では「マリアージュ」「水仙の季節」「北緯六十度の恋」が良かったです。

(2012.01.28)


すべての美人は名探偵である/鯨統一郎 (光文社文庫)

★★★  

「邪馬台国はどこですか?」シリーズの高飛車な美人歴史学者・早乙女静香と、 「九つの殺人メルヘン」で「アリバイ崩しの東子」と異名を取った美人女子学生・桜川東子が、タッグを組んだ! 徳川家の秘密に関する古文書と、それに秘められた童歌「ずいずいずっころばし」の謎、 そして現実に起きた歴史学者の殺人事件。 しかも被害者は沖縄と北海道で同時に死んでおり、 容疑者は「9つのアリバイ」に守られていた…。 鯨統一郎のシリーズ集大成的作品。

シリーズを通して読んでいる読者へのサービス的作品ですね。 さらにミスコンでは「タイムスリップ」シリーズの彼女までゲスト出演する、 というサービスっぷりです。 「9種類に分類できるアリバイトリック」すべてに守られているトリック、 というのはさすがに強引かなあ、とは思いましたが。

(2012.01.26)


歪笑小説/東野圭吾 (集英社文庫)

★★★☆ 

「○笑小説」シリーズ第4弾、いきなり文庫落ち。 出版業界の内幕を暴露する連作短編集。

出てくるのは編集者や作家達ですが、繰り返し出てくるので、段々と感情移入してきますね。 「小説誌」の自虐っぷりは、作家である東野さんが書いているんだからシャレになっているんですよね。

書き下ろしの巻末広告で、唐傘ザンゲ先生がちゃんと直本賞を取ったんだ、とか、 寒川先生の引退作もちゃんと直本賞候補に残ったんだ、というのが分かる仕掛けは面白かったです。

(2012.01.24)


新・日本の七不思議/鯨統一郎 (創元推理文庫)

★★★  

「邪馬台国はどこですか?」「新・世界の七不思議」に続くシリーズ第3弾。

残難ながらデビュー作「邪馬台国はどこですか?」ほどのインパクトは無いんですよね。

六郎と静香って、いつの間にこんなに仲良くなったんでしたっけ? なんかこの2人が活躍する長編でもあるのかな?

(2012.01.21)


カンナ 飛鳥の光臨/高田崇史 (講談社文庫)

★★★  

高田崇史の新シリーズ。伊賀忍者の末裔であり、出賀茂神社のお気楽跡取りである鴨志田甲斐が、 「敗者の歴史」が記されたという秘密の社殿「蘇我大臣馬子傳暦」の存在を巡り、 陰謀に巻き込まれていく、というシリーズ。

現実の事件と並行して、歴史の裏に秘められた真実を暴き出す、という基本線は「QED」と同じですが、 今シリーズでは登場人物が忍者の末裔達ということもあり、 主人公達自身がかなり直接巻き込まれてアクションシーンも多い、 というところが大きな違いでしょうか。

QEDの方はどうやらあと2本で完結するようですね。

(2012.01.21)


弥勒の月/あさのあつこ (光文社文庫)

★★★  

あさのあつこの時代劇シリーズ。 同心・木暮信次郎、岡っ引きの伊佐治、そして妻である小間物問屋遠野屋の若おかみ・おりんに死なれた主人・清之介。 清之介の頼みでおりんの死の真相を探る信次郎と伊佐治だったが、 目撃者や関係者が次々と殺されていく連続殺人事件に発展。 果たして清之介の過去に何があったのか?

清之介と信次郎のキャラクターのぶつかり合いが見所でしょうか。 どちらもちょっと常人離れしているのですが、そのベクトルが異なるというか。 解説読むと、どうやら以降のシリーズでも清之介も出てくるようですね。

(2012.01.17)


ルー=ガルー2 インクブス×スクブス 相容れぬ夢魔 (上)(下)/京極夏彦 (講談社文庫)

★★★☆ 

「ルー=ガルー」シリーズの第2弾。いきなり「インクブス×スクブス 032」から始まるので、 上巻と下巻を間違えたのかと思いました。「1」の最後から章番号は引き継いでるんですね。

今回も章ごとに視点が入れ替わる構成ですが、一方は前回の事件の結果警察をクビになったダメ中年・橡。 そしてもう一人の方は、前作で誘拐され最後に助け出された大阪弁の少女・律子。 前作はほとんど出番のなかった律子ですが、実は祖父から受け継いだ前時代の移動機械「バイク」 を密かに復元していたり、とかなりの変わり者だった事が判明。 彼女が「喪服女」こと佐倉雛子から、「毒の瓶」を受け取ったことから、 様々な事件に巻き込まれます。

しかし前作に比べると、どんなにピンチになっても、 歩未と美緒の2人がいれば大抵のことはどうにかなってしまうだろうな、 という安心感があり過ぎて、ちょっと緊張感は薄れてしまったかなあ、という感じもします。

(2012.01.16)


ルー=ガルー 忌避すべき狼 (上)(下)/京極夏彦 (講談社文庫)

★★★★ 

情報化が進んだ近未来。県議員の娘で携帯端末が全てだった葉月。 一匹狼の歩未。天才児にしてハッキングの天才でもある美緒。 「無国籍」の美少女・麗猫。データこそが全てで、データが無くなれば全て「なかったこと」にされる世界で、 彼女たちが出逢った連続殺人事件と、その真相とは?

葉月パートと、彼女たちのカウンセラーでもある静枝パートが交互に現れる構成。 最初、今から100年くらい後の世界なのかと思って読んでいたんですが、 意外と近い未来(「20世紀生まれ」が40半ば過ぎの中年くらい)でした。 なかなか細かいところまで世界観が作り込まれていて感心させられました。 少女が大活躍する中、ダメ中年刑事の橡がいい味出してます。

敵が本当に何でもアリで、下巻の途中くらいまででかなり絶望的な状況に追い詰められるのですが、 そこからの大逆転劇はかなりカタルシスありました。 「2」も続けて刊行されているので、楽しみです。

(2012.01.10)


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